水不足が深刻となる近年、とくに話題になってきている海水淡水化。
キレイな川が流れ水道水を安心して飲める私たちにとってはあまり身近に感じないかもしれませんが、飲料水から工業用水にいたるまで、淡水化の技術は必要不可欠な存在です。
そしてそんな淡水化の分野において、実は日本は高い技術力を持っているんですよ!
ということでこの記事では、そんな淡水化に着目。市場規模から注目の日本企業まで、まるっとお伝えしていきます。
目次
淡水化の将来市場規模は?
そんな話題の海水淡水化事業ですが、今後の展望はどうなっているのでしょうか。まずは将来の市場規模を見てみましょう。
経済産業省の公式サイトに掲載されている資料によると、2019年では以下の通りでした。
事業分野 | 施設整備 | 維持管理 | 分野別計 | 事業分野別シェア |
---|---|---|---|---|
海外市場計 | 26兆2249億円 36.5% |
45兆6443億円 63.5% |
71兆8691億円 100.0% |
100.0% |
上水 | 8兆2456億円 33.8% |
16兆1786億円 66.2% |
24兆4242億円 100.0% |
34.0% |
下水 | 13兆9547億円 49.1% |
14兆4757億円 50.9% |
28兆4304億円 100.0% |
39.6% |
産業用水・その他 | 3兆6750億円 20.3% |
14兆4504億円 79.7% |
18兆1254億円 100.0% |
25.2% |
海水淡水化 | 3469億円 39.3% |
5397億円 60.7% |
8893億円 100.0% |
1.2% |
世界の⽔ビジネス市場規模から見ると、同じ水ビジネスでもまだまだ市場規模が小さかったのがわかると思います。
そのうえで今後の展望がこちら。
ちょっと見づらいですが、2025年には海⽔淡⽔化設備0.6兆円、海⽔淡⽔化維持管理0.8兆円、合計1.4兆円と予測。
さらに2030年には、海⽔淡⽔化設備と海⽔淡⽔化維持管理でそれぞれ1.4兆円。あわせて2.8兆円規模になると予測されているのがわかります。
水ビジネス自体が右肩上がりで市場規模を拡大する予定であり、それに伴って海水淡水化事業も今よりも倍以上に市場規模を拡大していきそうですね。
海水淡水化で注目の日本企業10選
そんな海水淡水化事業ですが、いよいよここから実際に注目の日本企業をご紹介。全10銘柄をピックアップし、業績や事業内容、さらには事業の売上規模やチャート画像なども詳細にお伝えしていきます。
1. 日東電工株式会社(6988)
- 東証プライム市場
- 時価総額1.3兆円
- 2022年3月期売上高8534憶4800万円
- 2022年3月期営業利益1322億6000万円
- PER(C)11.3倍/PBR1.5倍
大阪に本社を置く「日東電工株式会社」。国内21社・海外78社もの企業を抱えるグループ企業であり、両面テープから半導体関連製品まで幅広く展開しています。
まさに私たちにとっても身近な存在である同社ですが、ヒューマンライフセグメントに分類されるメンブレン事業において、高分子膜分離技術を展開。いわゆる逆浸透膜(RO膜)などで有名なんですよ。
早い段階からこのメンブレン・テクノロジーに力を注いでいたことが強みであり、省エネ型海水淡水化用新製品なども展開。実際この製品は、オーストラリア・ヴィクトリア州の海水淡水化プラントからも受注されるなど高い実績を誇っています。
なお公式サイトに掲載されているセグメント別の状況によると、ヒューマンライフセグメント全体で2023年3月期第1四半期の売上収益257億8600万円となっています。
過去一か月の直近高値では2022年7月26日が9,050、同じく直近安値では2022年7月12日が8,270となっています(2022年7月29日現在)。
2. 東洋紡株式会社(3101)
- 東証プライム市場
- 時価総額920億円
- 2022年3月期売上高3757憶2000万円
- 2022年3月期営業利益284億3000万円
- PER(C)7.1倍/PBR0.5倍
その名の通りもともとは紡績から始まった「東洋紡株式会社」。現在では化学企業として大手であり、さまざまな製品を製造・販売しています。
そんな同社ですが、生活・環境セグメントのアクア膜事業部において、中空糸型逆浸透膜モジュールのホロセップ®を開発。耐塩素性が高いのが特徴で、微生物増殖によって生じる目詰まりなどに対し、低コストで対応できるんだとか。
実際多くの地域で採用されており、福岡にある国内最大規模の海水淡水化施設やサウジアラビアなど、国内外で選ばれています。
なお生活・環境セグメント全体の売上高は、2022年3月期で1142億9500万円となっています。
過去一か月の直近高値では2022年7月8日が1,068、同じく直近安値では2022年7月6日が985となっています(2022年7月29日現在)。
3. 東レ株式会社(3402)
- 東証プライム市場
- 時価総額1.18兆円
- 2022年3月期売上高2兆2285憶2300万円
- 2022年3月期営業利益1005億6500万円
- PER(C)11.8倍/PBR0.8倍
みなさんおなじみの有名企業「東レ株式会社」。化学企業大手であり、繊維や機能化成品など幅広い分野で活躍していますよね。
なかでも今回注目なのが、同社が手掛ける環境・エンジニアリング事業。この事業では水処理膜や水処理装置などを展開しており、逆浸透膜(RO膜)・ナノろ過膜(NF膜)・限外ろ過膜(UF膜)・精密ろ過膜(MF膜)すべて取り揃えているのが特徴です。
最近ではアラブ首長国連邦にできる世界最大の海水淡水化プラントにて逆浸透膜(RO膜)を受注。国内外問わず多くの実績を誇っています。
なお公式サイトによる環境・エンジニアリング事業全体の売上収益は、2021年度で1993億円。売上収益構成比9%となっています。
過去一か月の直近高値では2022年7月1日が780.8、同じく直近安値では2022年7月11日が682となっています(2022年7月29日現在)。
4. 日立造船株式会社(7004)
- 東証プライム市場
- 時価総額1,399億円
- 2022年3月期売上高4417憶9700万円
- 2022年3月期営業利益155億4100万円
- PER(C)14.0倍/PBR1.1倍
その名の通り造船業を始まりとする「日立造船株式会社」。今やプラントや機械などを手掛けるメーカーとして有名ですよね。
そんな同社ですが、環境セグメントにおいて造水・水処理事業を展開。海水淡水化プラントを手掛けており、実績豊富なのが魅力です。
2020年3月31日現在の情報によると、1971年の建設を皮切りに以降45件もの納入実績を持っているんですよ。
なお公式サイトによる環境セグメント全体の売上高は、2022年3月期通期で3072億円となっています。
過去一か月の直近高値では2022年6月29日が888、同じく直近安値では2022年7月6日が797となっています(2022年7月29日現在)。
5. 株式会社電業社機械製作所(6365)
- 東証スタンダード市場
- 時価総額128億円
- 2022年3月期売上高228憶2000万円
- 2022年3月期営業利益24億2500万円
- PER(会)7.1倍/PBR0.6倍
風水力機械メーカーであり、機械や装置の製造や販売などを手掛けている「株式会社電業社機械製作所」。ポンプや送風機などを展開している企業ですね。
単一セグメントのため事業ごとの売上規模は不明なものの、海水淡水化に必要なRO高圧ポンプMODEL MT-RDなども展開しています。
また2016年には、国内メーカーとして初となる逆浸透膜法海水淡水化施設用エネルギー回収装置(ERS)の商品化をした実績を持っているんですよ。
過去一か月の直近高値では2022年7月1日が3,195、同じく直近安値では2022年7月6日が2,895となっています(2022年7月29日現在)。
6. 栗田工業株式会社(6370)
- 東証プライム市場
- 時価総額6,024億円
- 2022年3月期売上高2882憶700万円
- 2022年3月期営業利益357億3400万円
- PER(C)23.4倍/PBR2.2倍
水処理薬品や水処理装置の製造・販売などを手掛けている「栗田工業株式会社」。なかでも今回は水処理薬品事業に注目です。
この事業では数多くの薬品をラインナップしていますが、RO膜処理薬品も展開。簡単にいうと、RO膜などの洗浄剤などを展開してるんですよ。
ここまで紹介してきた企業でも見かけるようにRO膜は淡水化施設や超純水製造装置などに使われますが、このRO膜のトラブル解決に役立つ薬品ってことですね。目立つ分野とは言いにくいものの、課題解決に欠かせない企業となっています。
なお公式サイトによる水処理薬品セグメント全体の売上高は、2022年3月期で1176億7200万円となっています。
過去一か月の直近高値では2022年7月28日が5,450、同じく直近安値では2022年7月14日が4,755となっています(2022年7月29日現在)。
7. 株式会社ササクラ(6303)
- 東証スタンダード市場
- 時価総額78億円
- 2022年3月期売上高101憶8200万円
- 2022年3月期営業利益5億5200万円
- PER(C)15.5倍/PBR0.3倍
聞きなれない人もいるかもしれませんが、海水淡水化の銘柄で注目度の高い「株式会社ササクラ」。というのも同社は海水淡水化装置に強いメーカーなんです。
現在はさまざまな分野で活躍しているものの、もともと船舶用造水装置の製造から始まった企業だけあって、他企業と比べても特化しているのが強みですね。
実際、船舶用機器事業では船舶用海水淡水化装置など、水処理装置事業では陸上用海水淡水化装置などを展開しているんですよ。
なおセグメント別の売上高を見てみると、船舶用機器事業全体での売上高は2022年3月期で20億8200万円、 水処理装置事業全体での売上高は2022年3月期で30億1500万円となっています。
過去一か月の直近高値では2022年7月27日が2,620、同じく直近安値では2022年7月11日が2,360となっています(2022年7月29日現在)。
8. 日揮ホールディングス株式会社(1963)
- 東証プライム市場
- 時価総額4,251億円
- 2022年3月期売上高4284憶100万円
- 2022年3月期営業利益206億8800万円
- PER(C)21.3倍/PBR1.1倍
建設会社・エンジニアリング会社として有名な「日揮ホールディングス株式会社」。実はこの企業も淡水化に取り組んでいる企業のひとつなんですよ。
というのも同社では、総合エンジニアリング事業と機能材製造事業の2つのセグメントを展開。なかでも総合エンジニアリング事業の産業・都市インフラ分野において、海水淡水化などの水処理事業も展開しているんですよ。
これまで各種プラントに携わってきただけあって、数多くの実績と世界的な評価は強み。実際2017年には、オマーン国の海水淡水化事業の事業権を獲得しています。
さらに2021年には、海外における水インフラ分野において株式会社日水コンと業務提携もし、今後さらなる活躍が期待できるんですよ。
なお公式サイトに掲載された財務情報の事業分野別情報によると、産業・都市インフラ関係全体の売上高は2022年3月期で48億4700万円となっています。
過去一か月の直近高値では2022年6月29日が1,830、同じく直近安値では2022年7月15日が1,566となっています(2022年7月29日現在)。
9. 株式会社荏原製作所(6361)
- 東証プライム市場
- 時価総額4,775億円
- 2021年12月期売上高6032憶1300万円
- 2021年12月期営業利益613億7200万円
- PER(C)10.4倍/PBR1.5倍
環境装置などを手掛けている「株式会社荏原製作所」。具体的には、ポンプや送風機、さらには排ガス処理装置や半導体製造装置などを展開している企業ですね。
そんな同社ですが、ポンプ・送風機・システム事業に注目。内のカスタムポンプ事業では大型・高圧ポンプも取り扱っており、海水淡水化向け・大型・高圧パイプラインポンプの納入実績もあるんですよ。
これはサウジアラビアにあるヤンブーという地域で海水を飲料用に淡水化して長距離を移送する一大プロジェクトに採用されたもので、同社の中でも500m以上の史上最高揚程なんだとか。
なおポンプセグメントによる全体の売上は、2022年12月期第1四半期売上収益516億円となっています。
過去一か月の直近高値では2022年6月29日が5,230、同じく直近安値では2022年7月6日と7日が4,820となっています(2022年7月29日現在)。
10. 株式会社酉島製作所(6363)
- 東証プライム市場
- 時価総額354億円
- 2022年3月期売上高522憶4000万円
- 2022年3月期営業利益44億4500万円
- PER(C)9.6倍/PBR0.9倍
ポンプメーカーとして活躍している「株式会社酉島製作所」。1919年に創業した老舗企業ですね。ハイテクポンプ事業のほか、プロジェクト事業/サービス事業/新エネルギー・環境事業なども手掛けています。
そんな同社ですが、今回注目なのはやっぱりポンプ分野!ハイテクポンプ事業において、海水淡水化に欠かせないポンプを展開しているんですよ。
同分野では40年もの実績があるのが強みであり、実際に世界各国に納入しているんだとか。
なお公式サイトによる2021年度の事業別の売上では、ハイテクポンプ事業全体で売上高176億1900万円となっています。
過去一か月の直近高値では2022年7月20日が1,385、同じく直近安値では2022年7月6日が1,247となっています(2022年7月29日現在)。
海水淡水化の日経参考記事の紹介
海水淡水化事業はこれからの規模拡大の予感!
今回は、海水淡水化で注目の日本企業について紹介してきました。同じ海水淡水化といっても、ポンプからプラント、薬品など、それぞれの企業の特色を生かした事業展開でしたよね。
そんな海水淡水化ですが、最初にもお伝えしたとおり市場規模は拡大予想。それに伴い、今後さらに力を注ぐ企業が増えてくることでしょう。
ぜひみなさんもこの機会に、海水淡水化事業をはじめ、水ビジネスの分野に注目してみてくださいね。